マンハッタンの秋@リンカーン・センター

娘が幼い頃、ベビーシッター代とオペラの切符代がほぼ同額だったので、寝ても構わないからと、メトロポリタン・オペラに一緒に連れて行ったものです。ところが、彼女の見たオペラがいつも悲劇だったので、オペラは必ず最後に主役が死ぬものだと、かなり長い間、娘は思い込んでいました。

リンカーンセンター広場とメトロポリタン・オペラ

 

確かに、昨年のオペラシーズン開幕を飾ったオペラは、ヘンリー8世の王妃で断頭台の露となったアン・ブーリンを題材にした、ドニゼッテイの「アンナ・ボレーナ」だったので、最後に主役は死にましたが、今年は違いました!

 

2012−13年のオペラシーズンは、若者ネモリーノが媚薬と信じて飲んだインチキ薬のお陰で、高嶺の花とあきらめかけていたアディーナとハッピーエンドで終る、ドニゼッテイの「愛の妙薬」で開幕しました。

 

昨年はアンナ・ボレーナ(アン・ブーリンのイタリア語読み)役、今年はアディーナ役で、2年連続してオペラシーズン開幕初日のプリマ・ドンナだったのは、歌のみならず美貌でも大人気のロシア出身のソプラノ歌手、アンナ・ネトレプコ。9月23日、シーズン開幕初日のオペラは、リンカーン・センター・プラザとタイムス・スクウェアでも、大型スクリーンに実況中継され、オペラファンのみならず、多くのニューヨーカー達が、屋外での無料オペラ鑑賞を楽しみ、オペラシーズンの開幕を歓迎しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左:「愛の妙薬」でアデイーナ役のアンナ・ネトレプコ

 

 

オペラハウスから見て左隣のAvery Fisher Hallでは、9月19日にニューヨーク・フィルハーモニーが、音楽監督でもあるアラン・ギルバートの指揮で、現代音楽のギョルギ・クルターク作の “quashi una fantasia”、ベートーベンの「ピアノ協奏曲第3番」、そして、ストラビンスキーの「春の祭典」を演奏し、クラシック音楽の秋の幕が切って下ろされました。

 

オペラハウスの右隣、ニューヨーク州立劇場(New York State Theater)では、ニューヨーク市立バレエ団の秋公演が9月18日から始まり、クリスマスシーズン恒例の「くるみ割人形」の公演ポスターが早々と張り出されています。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マンハッタンの秋は、セントラル・パークの紅葉よりも一足早く、リンカーン・センターから始まります。

 

 

リンカーン・センターはブロードウェイがコロンバス・アベニューと交差するあたり、西62丁目から西65丁目の広い区域にまたがっています。ブロードウェイと言うと、ミュージカルの代名詞ですが、リンカーン・センターはクラシック音楽の代名詞として使われています。実際にはクラシック音楽だけでなく、映画や演劇用の劇場もあります。でも、一般大衆向けの娯楽映画ではなく、マニア向けの映画が上映されることが多いようです。リンカーン・センターと普通呼ばれていますが、正式の名称はLincoln Center for the Performing Artsです。

 

 

リンカーン・センターには、メトロポリタン・オペラハウス、Avery Fisher Hall, Alice Tully Hall, New York State Theaterにジュリアード音楽院が、一般的によく知られた施設です。でも、これら以外にも劇場が二つ、図書館や美術館も含まれた総合芸術センターになっています。さらには、すぐ近くのコロンバス・サークルに建つタイム・ワーナー・ビルの中に、別館として「Jazz at Lincoln Center」があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここではジャズを中心としたコンサート、教育、放送関係のイベントがたくさん行われています。コンサート・ホールの他にも「ジャズの殿堂」があり、ルイ・アームストロング、マイルス・デービス、カウント・ベーシー等々、数多くのジャズ界の巨人達がこの殿堂入りをしており、ジャズファンには見逃せない場所です。

 

私の今年のオペラシーズンは豪華絢爛な衣装と大掛かりな舞台セットで人気のある、プッチーニの「トウーランドット」で始まりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左:「トウーランドット」の看板

右: 「トウーランドット」のカーテン・コール

 

 

 

 

 

メトロポリタン・オペラ(以下、METと略します)はよく「グランド・オペラ」だと言われます。出演する世界的オペラ歌手を意味するだけでなく、舞台のセットも大掛かりで華やかなオペラが多いからです。そんなグランド・オペラの代表が、フランコ・ゼフレッリ演出のオペラです。思いつくままに挙げてみても、「ラ・ボエーム」でのパリのカルチェ・ラタンを模したセット。「トスカ」での聖アンドレア・デラ・ヴァレ教会を模したセット。「椿姫」に「トゥーランドット」のセット等々。観客が舞台セットの豪華さに息を飲み、舞台セットに大拍手を送るという光景がMETではよくありました。このグランド・オペラの伝統も2006年にピーター・ゲルブが16代目のMET総支配人に就任してから進化しつつあります。

 

                 オペラハウスの華やかな内部

 

 

ピーター・ゲルブの功績はたくさん挙げられますが、目に見えて変わったのが、METに出演するオペラ歌手でしょう。一般の人が抱くオペラ歌手って、歌は素晴らしいけれど、太り過ぎで役のイメージと違っていたり、ただ突っ立って歌っていただけの歌手が以前は多かったものです。パバロッテイもそんな一人でしたが、彼は例外中の例外。観客はパバロッテイが棒のように突っ立っているだけだろうが、腰が痛くてセットに寄りかかりながら歌おうが、彼が舞台で歌っているだけで満足だったのです。最後のスーパー・テナーだったのかもしれませんね。

 

ピーター・ゲルブが総支配人になってからは、METに出演するオペラ歌手には、歌だけでなく、演技力とルックスも要求されるようになりました。実際、役柄のイメージにあわないからと、契約を打ち切られた歌手もいましたし、以前は丸太ん棒のようだった歌手が、大減量し、本当に「歌姫」に見えるようになった人もいます。こういうMETの厳しい基準をパスし、今、絶好中の歌手には、前述のアンナ・ネプレトコ、フランスのソプラノ、ナタリー・デッセイ、ペルー出身のテノール、フアン・ディエゴ・フローレス、それから…….名前を挙げ始めるときりが無いのでこの辺でやめておきますが、ルックスも良く、演技も出来るオペラ歌手達のお陰で、オペラがもっと面白くなったのは確かでしょう。

 

ゲルブは更に演劇界、ミュージカル界からも新鋭の演出家を起用しました。その好例はミュージカル、「ライオン・キング」を演出したジュリー・テイモアによる「魔笛」。METの大舞台に圧倒的スケールで極彩色のファンタジー舞台が作られました。その反面、ゼフレッリに代表される古風で、製作コストの高い大型舞台セットが姿を消し、私を含めてオールド・ファンをちょっとがっかりさせています。でも、コンピュータを駆使した新しい演出でのオペラが増え、21世紀型の「グランド・オペラ」にMETは大きく変貌しつつあります。

 

オペラよりもカジュアルにクラシック音楽を楽しみたい方には、Avery Fisher Hallでのニューヨーク・フィル演奏会がお薦め。カジュアルという意味は、オペラに比べると、服装とか遅い終演時間をそれほど心配しなくてよいという意味で、演奏レベルはカジュアルどころか超一流の演奏が楽しめる事は今更言う必要もないと思います。

ベテランのロリン・マゼールから2009年に音楽監督を引き継いだのは、45歳のアラン・タケシ・ギルバート。生粋のニューヨーカーですが、「タケシ」の名前が示すようにお母さんが日本人。ちなみに、前音楽監督、ロリン・マゼール夫人も日本人。オーケストラ・メンバーにも、最近は若いアジア系女性の数が目に見えて増えています。アジア系女性パワーに支えられているニューヨーク・フィル。応援したくなってしまいます。

 

 

ニューヨーク・フィルの演奏をもっと安く、手軽に聞いてみたい方には公開リハーサルがお薦め。公開リハーサルは月に1,2度、木曜日か水曜日の午前中に(9:45~12:30頃)あり、値段は18ドル。正規のコンサートは29ドルから67ドルですから、18ドルで本番さながらの演奏が聞けるのはなんともお得です。リハーサルと言っても、真剣そのものですが、指揮者もオーケストラメンバーも、ジーンズとかセーターの普段着。観客も好きな席に陣取り、演奏を楽しんでいます。時々、指揮者からダメが出され、繰り返し練習されられる光景が見れるのも

また面白いものです。

 

                公開リハーサルでは指揮者もオケ・メンバーも普段着

 

 

オペラのドレス・リハーサルはニューヨーク・フィルの公開リハーサル以上に素敵なんですが、この招待状を貰えるのはオペラハウスに高額の寄付をした人のみ。METも運営資金確保に四苦八苦しています。

ドレス・リハーサルは難しくても、オペラハウスの楽屋ツアーは簡単に申し込めますので、これもお薦め。オペラシーズンの間、平日は午後3時、日曜日は午前10時半と午後1時半からの2回。料金は20ドル。衣装部、鬘の部門、セット作成の大工さんたちの部門、メーキャップ部門にリハーサル室やら有名歌手たちの控え室。華麗なオペラはこんなにもたくさんの人達によって支えられている事を改めて知り、舞台や客席の豪華さに比べると、古くてごちゃごちゃした楽屋を見学すると、もっと寄付してあげたい気分にさせられます(笑)。本当はそれがツアーの目的なのかも? ツアーガイドはMETやオペラを知り尽くしているボランティアの人々。中には、コロンビア大学の教授などもいて、運良くこういうガイドさんにあたると、オペラの世界がさらに面白くなります。

 

今年、スピルバーグ監督により映画化もされた「戦火の馬(War Horse)」。アメリカ演劇最高の賞といわれるトニー賞で、2011年のベスト演劇賞をとった舞台版は、リンカーン・センターのVivian Beaumont Theaterで今も好評続演中。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左:「戦火の馬」のポスター

右:第50回ニューヨーク・フイルム・フェステイバルのポスター

 

New York State Theaterでのバレエ。娘がまだ小さかった頃、「くるみ割人形」に連れて行ったものです。着飾った女の子達で一杯になるリンカーン・センター。クリスマス・シーズンの楽しい風物詩です。初めて見たバレエがここの「くるみ割人形」だったと言うニューヨーカーがたくさんいるはずです。

 

最後にリンカーン・センターでの食事も楽しいですよ!オペラハウスの中の「Grand Tier Restaurant」では、オペラの前や休憩時間に、優雅な気分で食事ができます。2年前にオープンした「Lincoln」。明るいガラス張りのお洒落なモダン・イタリアンのお店です。このレストランの屋根は芝生になっていて、お天気の日にはたくさんのジュリアード音楽院の学生たちが授業の合間、日向ぼっこをしている光景が見られます。もっと、軽い食事でよいという方には、「At 65 Cafe at Alice Tully Hall」が如何でしょうか。ここもガラス張りの広々とした空間。ブロードウェイとコロンバス・アベニューが交差する場所に面しているので、道行く人々を眺めながらの食事はマンハッタン気分で一杯です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左:オペラハウス内のレストラン「Grand Tier」

右:カジュアルな「At 65 Cafe at Alice Tully Hall」

 

秋が深まるにつれ、噴水のある広場ではアート・フェステイバルが開かれることもあり、リンカーン・センターは様々なジャンルの芸術の中心地として賑わいます。

(スナイダー純子)

 

 

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