夫婦・家族

肺ガン末期の親を見送った顛末6「やっと入院にこぎつける」

8月4日 入院できるということで、夫に父を病院に連れてきてもらう。

タクシーから降りる父を迎え、病院の車椅子にのせ、言われるままに看護師にたくす。

まず採血とレントゲン。

看護師が言うに、水分を十分にとっていないので血がドロドロで、採血しにくかったとのこと。

父にはいつも「水分をとらなきゃダメよ」と言ってるのに、ちっとも水もお茶も飲んでくれない。どうして人の言うことを聞いてくれないの、と悲しくなる。

 

ひと通りの診察を受け、12時頃、やっと病室のベッドに落ち着き、ホッとする。

若いイケメンの男性看護師が父の世話をしてくれる。

入院に必要なものを書いた紙を渡され、「特別療養環境室(差額ベッド)入室申込書」やオムツ使用料、診断書・証明書等の文書料などの実費負担についての同意書などにサインをさせられる。

「後で先生からご家族の方に説明がありますので、お待ちください」とイケメンに言われ、病室の外で待っていると、間もなく呼ばれた。

 

「担当医の植木です」

こちらはイケメンではなく、ガタイの大きい40代。

「よろしくお願いいたします」と深々と頭をさげる。

医師はパソコンのモニターに胸部レントゲンの画像を映し出して、説明する。

「レントゲンの画像を見るかぎりは肺ガンの末期だと思われます。しかし、うちの病院でそれを断定する診察をすることはできません。ガンと診断を下すためには、たくさんの検査を行う必要があり、患者さんにも苦痛が伴います。苦痛を伴わない検査の方法としては、PET検査という方法があります。その検査はここではできません。その設備がある病院に予約をして、介護タクシーなどで行っていただくことになります。どうしますか?」

「聖M病院では余命1か月だと言われましが、ガンではない可能性もあるのですか?」

「画像を見る限りは、肺に無数の小さなガンが転移しているように見えます。ただ、そのガンの元になっている病巣がわからないんです。余命については一ヵ月かどうかはわかりません」

「じゃ、もっともつつかもしれないんですね」

「そうですね。はっきりしたことは言えませんが、でも半年以上、というようなことはないと思います」

「そうですか…。今日、やっと入院できたところですし、ペット検査のことは少し考えます。車で遠くの病院まで行って検査を受けるのは、かなり本人にとって負担なことだと思うので」

「わかりました」と言いながら植木医師は「入院診療計画書」なるものを取り出して見せた。その内容が下記である。

病名:肺癌

症状:全身倦怠感 食欲不振

治療計画:本人の苦痛をとることを最優先とする

酸素吸入、鎮痛剤(モルヒネを含む)、鎮咳剤などを使用

肺炎を想定した抗生剤投与を行う

検査内容及び日程:必要に応じて血液検査、レントゲン、CT検査など

推定される入院期間:未定

特別な栄養管理の必要性:無

看護計画:安全・安楽に過ごせるよう努めます。

発熱による九通の緩和に努めます。

呼吸状態に注意して観察します。

症状に合わせて、食事形態を選択します。

入院への疑問や不安に対して、迅速対応・問題解決に努めます。

 

植木医師は「入院診療計画書」を説明しながら、

「積極的な治療を施すというよりは、できるだけ本人の苦痛を取り除き、穏やかに過ごせるようにしていくようにしますが、それでよろしいですか」

と聞いてきた。

「はい、その方向で、よろしくお願いします」

「食事制限などもありませんから、何でも好きなものを食べさせてあげてください。外出したいときは、言っていただければ許可しますし、行きたいところがあればなるべく早い時期に行かれたほうがいいと思います」

「はい」

そう答えながら、父に行きたいところがあるのだろうか?と考えてみた。

住まいは3年前に移り住んだ高齢者賃貸住宅で、そんなに愛着があるわけではない。私の家は泊まったこともないし、論外だ。兄とはここ10年以上断絶状態。

妻に先立たれ、持ち家もない父に、帰りたいと思うほど愛着のある場所があるとは思えなかった。

 

「明日にでもCTスキャンをとります」と医師に言われたので

「CTは昨日、聖M病院で撮ってるんです。その画像をもらっくるんではいけませんか?」と聞く。

レントゲンやCTスキャンを繰り返すのは、体に負担があるのではないかと思ったからだ。

植木医師はそれでいいと言ってくれた。

 

父の病室に戻った。

昼食に「冷やしうどん」が出ていたが、まったく手がつけられていなかった。

けっこうおいしそうに見えるのに……

 

「具合はどう? お昼、少しは食べたほうがええんちゃう?」

「食欲ないねん。それに、この管をつけられてるのが、うっとおしいて、イヤなんや」

「点滴は、食事を食べへんから、必要になるのよ。水分と食事をちゃんととってたら、点滴も必要なくなって、管も外せるから。水分をとってないから、血がドロドロで採血に苦労したんやてよ」

「そうか」

「私とエイジさんは、これからパパの部屋行って、パジャマとかいろいろ入院に必要なものとってくるから。なんか持って来て欲しいもんある?」

「そやな…、棚に飾ってある写真持ってきて」

「うん、わかった。また夕方来るからね」

小さくうなづいて、父は目をとじた。

 

(ヤマダヨウコ)




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