夫婦・家族

わたしたち、もしかして仲良し家族?5 「ホスピス見学に行ってみた」

8月。放射線治療を終えて退院した母は、ホスピスへ行きたいと言い張った。円満とは言い難い父とふたりの家に戻るのは、やっぱり気が進まないらしい。

 

 

「(ホスピスには)まだ全然入る段階じゃなかですよ。でも、将来のために顔つなぎはしといた方がいいですけんね
と、医大の女医さんは予約をしてくれた。

 

ホスピスとは、それ以上の治癒が望めない患者の痛みや苦しみを取り除き、最期を穏やかに過ごすための手助けをしてくれる病院のこと。実家近くにあるホスピスは、県立病院ひとつだけ。すぐに受け入れてはくれないだろうが、母がそう望むなら、お供するしかありません。

 

県立病院は、その年の4月に移転、オープンしたばかりだった。
駐車スペースがゆったりとられた、広大な平面駐車場。
外来はすべて1Fで、明るい光が差し込む待合室には座り心地のよいソファー。受付も、食堂もまばゆいほどにぴかぴかだ。

「よく来んしゃったですね」
迎えてくれたのは、40才ほどの恰幅のよい男性医師で、ムーミンパパを連想させた。
「ホスピスでは、これからのことを一緒に考えていきましょう。さて、なにが心配ですか?」
「脇腹のところが痛かとですよ」
医大の若手医師は見てもくれなかったが、ムーミンパパ医師は、丁寧に診察した上で説明してくれた。
「おそらく、手術の後遺症のごたっですね。がんの痛みではなかでしょう。ぼくは、ペインクリニックゆうて、元々痛みをとるのが専門です。痛いのを我慢しとっても、いいことはなんもありません。薬を飲んで、痛い時間がないようにしていきましょう

 

まとめると
・末期がんは痛いと思われがちだが、よい薬ができて、
 自分で痛みをコントロールできるようになった。
・痛くなければ住みなれた家で過ごせる
ホスピスは最後を看取る入院施設だけではなく
 患者が望む暮らしができるように支援する医療機関である
かかりつけ医と連携して支援する

 

母のかかりつけ医は、パーキンソン病を見てくれている脳神経外科の個人病院となる。
「○○先生なら、同期でよく知っとります。安心して任せられる、よか男です。」
「まぁ♪」
ムーミンパパ医師がすっかり気に入った母は、いつもの○○先生を見直したらしかった。

 

「ホスピスは、みなさんが順番待ちしとらすし、タイミングもあるとですよね。
今日ならベッドが空いとるけん、入らるっとですがね。もう入りますか?」
「そう思っとったけど、まだ早かごたっですね。でも、また来てもよかですか?」
「もちろんお待ちしとります」
ムーミンパパの診察後、母は目に見えて落ち着いた。
ビバ!ホスピスって素晴らしい。
「帰りに(ホスピス)病棟を見学して行かれんですか」
そう言われて最上階へ上がると、看護婦さんが出迎えてくれた。
ナースステーション前の共有スペースにはキッチンとテーブル、ゆったりとしたソファがあり、患者と家族が自由に使うことができる。南向きの大きな窓は広いテラスへと続いていて、セレブの豪華マンションのよう。傍らのグランドピアノでは、月に何度かミニコンサートが催されるとのこと。
すれ違うすべてのスタッフが「ようこそ」と柔らかい笑顔を向けてくれる。
2人部屋が2つと、個室が3つ。
ここで最期を迎えられたらどんなに安心できるだろう。

 

「(ホスピスで着る)部屋着を買わないかんねぇ」
その時は寝たきりで洋服どころじゃないかもね…とは思ったが、すぐにでも入院したいと言っていた母が、買い物に行く気になったのは喜ばしい。

 

後日、わたしたちはS市の小さなデパートへ出かけた。

母は、杖をついてゆっくりとしか歩けなかったが、自分の足で売場を巡ってご機嫌だった。柔らかくて着心地のよいジャージワンピースの部屋着は1万円もしたけれど「贅沢してもいいよね」と同意を求める笑顔は元気な頃のままで。

この部屋着を使うのは、まだずっと先だったらいいな。
わたしは、ぐっと涙をこらえたのだった。

 

花村 桂子

10 Comments

  1. yuko

    言葉だけで人って元気になれるんですね。ほんと、こんなところで人生の最後をむかえられたら幸せかも、って思いました。
    ホスピスの先生方の温かみのある方言が、そのまま文章で再現されていて、自分もその場に立ち会わせてもらったような気になりました。

  2. kaoru

    ホスピスって何となく怖い、淋しいイメージだったけど
    こんなに優しい先生や環境だったら安心ですね。
    東京より地方の方がゆったりとして
    人も温かく丁寧に見てくれるという感じがしてうらやましいです。

  3. けい

    yukoさん

    >言葉だけで人って元気になれるんですね。
    ほんとにそう
    言葉って偉大

    ムーミンパパ先生は
    話し方や声のトーン、まなざしも完璧でした
    特に母はひとの言葉に敏感でくよくよ悩みがちなので
    よかったです

  4. けい

    kaoruさん

    >ホスピスって何となく怖い、淋しいイメージだったけど
    わたしも、ホスピスって閉鎖病棟のイメージでしたが
    全然そんなことなくって
    みんなが行く病院の1フロアにありました
    1つしかないので長く入院するのは難しそうだけど
    外来でゆっくり見ていただけるのはありがたいです

  5. nobuko

    >ムーミンパパの診察後、母は目に見えて落ち着いた。

    患者を安心させるのも医療の一つと思うんです。

    どうして普通のお医者さんでその辺が軽視されがちなんでしょうね。

    義母は最後を緩和ケア病棟で過ごしたのですが、「普通の病院もこうできたら良いのに」という事がたくさんありました。医療と緩和ケア、受ける側からするともっと近づいていいと思います。

  6. けい

    nobukoさん

    >患者を安心させるのも医療の一つと思うんです
    ほんとにそうですよねぇ
    体と心は繋がっていますからね
    先生もお忙しいのでしょうが、配慮していただけたらと思います

  7. りーたん

    実家の母と話をする際、最近とても言葉を選んでいる自分がいます。
    高齢になると、色々な不安から、ますます人の言葉に敏感になってしまうんでしょうね。

  8. けい

    りーたんさん
    >実家の母と話をする際、最近とても言葉を選んでいる自分がいます。
    お優しいですね
    素晴らしい心遣い

    わたしは後で「あっ(しまった)」と思うことが
    まだ多いみたい

    1. りーたん

      けいさん、そうではないんですよ~
      母からネガティブワードを聞きたくないからなのです。
      テンション下がりますからね。
      自分本位な考えなのです~

  9. けい

    りーたんさん
    >母からネガティブワードを聞きたくないからなのです。
    うちの母はネガティブワードが多い
    聞くとどよよよーんってなります
    わたしも気をつけよう!

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