夫婦・家族

わたしたち、もしかして仲良し家族? 母の介護を通して2 「肺への転移」

「肺のここに、白い部分があるのが見えっですか?(見えますか)これは、がんの影ですね」
医大の診察室で、40をちょっと過ぎたくらいの女性医師は、レントゲン写真を指差した。母が食道がんの手術を受けて1年。こんなに早く、再発してしまったのか。
「じゃあ、ずっと体調が悪かったとは、がんが進んどったけんですか?」

「うーん。まだこんくらいの大きさなら、自覚症状は出とらんでしょう。痛かとは手術の後遺症よ。」
「もう1年も経ったとに、こんなにきつかとなら(辛いなら)、手術せんかったらよかった」
母はがっくりとうなだれてしまった。父は、不機嫌そうに眉をひそめて口をつぐんだままだ。

 

「だから言ったやん」
わたしは、口から出そうになる言葉を、ぐっと押しとどめる。1年前、わたしは止めたのだ。しかし、母は依怙地で頑固だ。わたしの言うことなんか聞きやしない。

「だって抗がん剤は通院でって言われたとよ。今だって(パーキンソン病で)手が震えて足も立たんのに、家におるなんてとてもムリ。」
「そんなら、(わたしの)うちから通えばいいやん。上げ膳据え膳してやるよ?」
「そんな、だんなさんに申し訳ないことしきらんわ。それに、あんたんとこ受験生やん。病院におるほうがよっぽど気が楽。それより手術のときに付き添ってくれたらいいけん。」

 

実をいうと母は、自己中心的で思いやりがなく、料理にうるさい父を、とても嫌っている。入院は、大手を振って父と離れられる、またとない機会なのだ。そう思い当たったわたしはあきらめて、仕事を3日休んで付き添った。母にとって長女のわたしは、子どもの頃から何でも言うことを聞く便利な召使いなのだった。
「あと、どのくらい生きらるとですか?」
「ひとによって進み方は違うけんねぇ?」
「もう家におってもきついだけやし、ホスピスに入りたいわぁ」
「それは、まだ早かですよ。治療ばされんですか(治療をしませんか)」

1年前から顔なじみのベテラン女医さんは、心配症で不安がちな母を上手に、優しくあやしてくれる。
「こういう症状には、重粒子線がよく効くとよね。鳥栖市に新しい施設ができたとを知らんですか?」

 

 

「九州国際重粒子線がん治療センター」
わたしの家から車で20分ほどの場所にあり、最先端のがん治療が受けられる。母ががんだと言われてすぐに、調べていたのだ。

 

「確か、自費なんですよね?」
「先進医療の技術料がかかるとよね、300万円くらい」
「わー、高いとねぇ!ムリムリ!」
明るい声で母が笑った。

「ほんと高いっちゃねぇ!」わたしが笑うと
「高いもんやなぁ」
ムッツリと押し黙っていた父も、つられたように口を開いた。
みんなで笑って、ようやく空気がほぐれた。

「(ふつうの)放射線治療をせんですか。医大で入院できるようにするけん」

「そんなに言われるなら、そうしようかね」
母は、大きくうなずいた。

 

この日受けた説明によると

  • 治療しなければ、余命は1年ほど
  • (手術や抗がん剤を併用しない)放射線治療だけでは、完治は見込めない
    今あるがんを退治して、広がるのを止めるのが狙いである
    また、肺炎などの後遺症が出る場合がある
  • 医大は最先端治療を受ける場所であり、本来ならば放射線治療だけでは入院できない。今回は特例である
  • ホスピス予約、完了

 

仕事中の妹にはメールしていたら、夜、電話がかかってきた。
「再発やったと?」
「うん、なんも(治療)せんかったら余命1年って」
「まじ?」
「お母さん、ホスピスに入りたいって」
「入院が好きやもんねぇ」
「とりあえず、放射線治療することになったけん」
「それでいいと?」
「(入院できるから)本人ノリノリ」
「言いだしたら、きかんしねぇ」

 

幼いころからお父さん子だった妹は、あっさり電話を切った。
実の母が余命宣告を受けたというのに、姉妹揃って泣きもしないって冷淡すぎる?
でも、とにかく妹も同じ意見で、わたしは少しほっとしたのであった。

 

 
花村 桂子


6 Comments

  1. yuko

    ―実の母が余命宣告を受けたというのに、姉妹揃って泣きもしないって冷淡すぎる?-
    私の場合は父だったけど、やっぱり泣きませんでした。泣くより、これからどうしよう、と思う気持ちのほうが強かったかな・・・。人間ってドラマにあるような行動はとらないものだと、そのとき思いました。

  2. nobuko

    我が家の場合健診で引っかかった義母が、いきなり「肺癌で転移もしていて余命8~11ヵ月」と言われたのですが、まず信じられなかったです。

    yukoさんの言うとおり、「これからどうしよう」が先なんですよね。兄妹が集まっても自宅に介護ベッド入れる話とか、緩和ケア病棟どうするとかの話で泣かなかったな。

    人が死にそうという時に、ドラマみたいに自分の感情を全開にすることなんか、怖くて出来ないものじゃないでしょうかね。

  3. 花村桂子

    nobukoさん
    >我が家の場合健診で引っかかった義母が、
    >いきなり「肺癌で転移もしていて余命8~11ヵ月」と言われたのですが、
    >まず信じられなかったです。

    そう、信じられないというか、それがどういうことなのか、いまいち認識できないんですよね
    段々いろんな問題が起きてきて、ようやく実感がわいてくるというか
    どうぞおつきあいくださいませ

  4. yuko

    それにしてもホスピスの予約がスムーズにできたのが凄いですね。父のときにその手のところを調べたのですが、予約待ちの人がいっぱいで、とてもすぐに入れる状況ではなく、暗澹たる気持ちになったものです。

  5. 花村桂子

    yukoさん
    >それにしてもホスピスの予約がスムーズにできたのが凄いですね。
    予約はスムーズなんですけど、それはまだ早かったから
    入りたくなったとき入れるかというと
    それはまた別の話…(^_^;)
    大人気ですものね

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。