夫婦・家族

「母とわたしと妹と 3人揃うと楽しいね」わたしたち、もしかして仲良し家族?9

母が、末期がんと言われて半年あまり。宣告された余命はとっくに過ぎたが、まだ自宅で暮らせている。このころわたしは、調子はどう? とご機嫌うかがいのメールや電話をするのを、やめてみた。母は「物事を客観的にとらえる」ことが苦手で、「主観的な感情表現」がとても豊か。
「少しも立っていられません」「何も食べられなくなりました」
というメールを見て飛んで行くと、ちゃんと歩いて部屋から出てくるし、みやげは食べる。「できないような気がする」ことを「できない」と表現しているのだろうと思ったが、やはりそう言われると平静ではいられない。言葉に振り回されて、わたしの神経が参りそうだったのだ。

 

 

母の様子は、自分の目で見て確認するに限る。
週に1度、実家に通い始めてそろそろ2年。痛みはだんだん強くなっているようで、9月は朝だけ飲んでいた痛み止めは 5時間ごとに。それでも効かないとき用にと麻薬系の強い痛みどめが処方された。室内では伝い歩きできるが、外を歩くことは難しい。

それでも探せば、母を連れて行ける場所は見つかった。医大の美容院では、病人に慣れた美容師さんが手早く仕上げてくれる。白髪を明るい茶色に染めたら顔色までよく見えると、おしゃれな母はとても喜んだ。デパートや大きなショッピングモールには、車いすが用意されているのが、ありがたかった。

 

 

3月
「(ホスピスで)痛みのコントロールが上手に出来てますねって褒められたとよ」
母は、とてもうれしそうだった。
「わたしくらいの(病状の)ひとは、ずっと寝とるひとが多いとって。でも、でかけたり、絵を描きよると、痛いのも忘れるとよね。昨日、友だちがお花見に連れて行ってくれたとが、ほんとにきれいかったとよ。」
「よかったやんねー」
母が楽しそうだと、わたしも嬉しい。

 

おととい送って来た

「(花見に誘われたけど)ここ数日体調悪く、立っていると膝から崩れ落ちそうで、本当にいけるか心配です。痛み止め飲んだら眠くてたまらず頭も目もぼーっとして何がしたいのか自分でもわからなくなっています」
という長文メールに、気付かぬふりをしたのは正解だった。

 

 

振り返ると、年末年始のゴタゴタ(前回参照のこと)の敗因は
「最後のお正月を、母と楽しく過ごしたい」
という、わたしのひとりよがりな思いだった。
去年の春、母はもう来年の桜は見られないだろうと思っていた。それなのに友だちとのお出かけが楽しかったとウキウキしてる。
もしかしたら、こんな日が、ずっと続くんじゃないかしら?

 

 

「調子よさそうやし、ハウステンボスでも行かん?」
言いだしたのは、妹のちかこだった。
「そりゃ楽しかろうけど、お父さんが…」
言いよどむ母を尻目に、ちかこは父の部屋のドアを開けて声を張り上げた。
「おとーさーん!ハウステンボスに行こうかって言いよるっちゃけど、お父さんも行かんー?」
「行くわけがない」
父の返事は相変わらずつっけんどんだが、ひるまない。
「じゃー、3人で行ってくるけん?」
「ん」
これで了解はとれた。幼い頃からお父さんっ子のちかこは、さすがの交渉上手。

 
そうして、4月のとある週末。
わたしたち母娘3人は、ハウステンボスへ1泊2日の旅に出た。
実家からほんの1時間半のドライブだけど、そこはまるでヨーロッパ。ゆるやかな運河が流れ、両岸は緑の芝生に覆われた遊歩道。そこここにベンチが置かれ、大木が日ざしをやわらかくさえぎっている。チューリップや芝桜を愛でながら歩いていくと、煉瓦づくりの建物がひしめく街へとたどりつく。広場の石畳の上では、バイオリンやアコーディオンの生演奏が奏でられ、青い目のギャルソンがチーズやワインをふるまってくれる。(※試食)

ハウステンボス

「ほんとにヨーロッパみたいやね」
「石畳もね!」
石畳が敷き詰められた町中で、車いすはがたごと揺れたが、母は気にならないようだった。花電車のパレードに手を振り、歌劇団の男役と目があったと喜び、ヘルパーさんたちにお土産を買わなきゃと張り切った。
出発前夜に、こんなメールを送ったひととは思えない。
「ちょっと食べすぎたら夜まで苦しくて口は食べたいお腹はパンパンです。下剤と痛み止めの座薬をつかうので、お出かけも難しく、本当に行けるか心配です。」
確かに、食事の量はまた少し減ったようだが、母の心配が杞憂に終わって本当によかった。

 

kkk02

卒業旅行以来、26年ぶりの母娘3人旅は、ほんとうに楽しかった。
「母を接待」という目的の元、姉妹の協力体制もバッチリ。方向音痴(ヒドイ)のわたしの代わりに行き帰りの道や広い園内をナビゲートしてくれるちかこは、ほんとうに頼りになった。
ハウステンボスでは、6月はバラが満開だし、8月は花火で盛り上がるという。また、母と一緒に来れたらいいな。

 

花村桂子

 

6 Comments

  1. nobuko

    うわー、羨ましい程素敵な時間を過ごしてますね。

    お母さんも嬉しかっただろうなあ。

    もうすぐ自分が終わるという感覚は、諦めているにしても恐怖だと思います。大げさに思えちゃうお母さんの言葉も、自分を見つめる怖さから来ているのかもしれませんねえ・・

    少しでも長く元気で、またこんな日が持てるといいですね。

  2. YUKO

    ほんと、素敵!
    お母さんとの距離感を保つのが、うまくいきはじめているのですね。
    姉妹でタッグが組めているのは、うらやましです。
    これを読んでいると、私ももう少し、母や父にしてあげられることがあったのでは・・・と思ってしまいます。
    もう、遅いけど・・・。

  3. けい

    nobukoさん
    >もうすぐ自分が終わるという感覚は、諦めているにしても恐怖だと思います
    そうですよね
    母の芝居がかったセリフには幼いころからうんざりしてきたので、そういう風には思えなかったのですが、わたしもそう思うようにしよう

  4. けい

    YUKOさん
    >お母さんとの距離感を保つのが、うまくいきはじめているのですね。
    うまくいったり、失敗したり(^_^;)
    でも、それができる時間がるのは幸せかもしれないですね

  5. りーたん

    26年ぶりの母娘旅行だったんですね~
    娘たちと一緒にハウステンボスに行けて、
    お母さまが一番うれしかったのではないでしょうか。
    幸せ時間が過ごせてよかったですね(^^)/

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