夫婦・家族

「ホスピスは家族ごと治療してくれる場所でした」わたしたち、もしかして仲良し家族?10

6月はじめ
母からメールが来た。また、体調が悪化したという。
「胃の調子が悪く病院へ行きたいけど(※ホスピス外来)予約がとれるか月曜日にならないとわからないです。介護タクシーも急にはあきがなくけいちゃん来てくれたらたすかるけど先日行ったばかりだからどう言われるかわかりません。明日よくなれば予約している日に行けばいいけど吐き気と食欲なく痩せてきてます。どうするか決めれません 母」(原文ママ)

 

 

それは、急な肺炎で入院していた父が、退院した翌日のこと。
2週間のひとり暮らしで気を抜いていた母は、不仲な父とのふたり暮らしに、もう耐えられなくなったのだろう。先週は喫茶店でパフェを(少しだが)喜んで食べていたのに、急激な落ち込みようである。

 

 

3日後
ホスピス外来で、母はストレッチャーで横になっていた。体を起こすことすらできないという。
「先生、もう家にはおりきらん。吐き気がしてなんも喉を通らんで、薬も飲みきらん。胸の横のあたりが痛くてたまらんです。入院したか。」
弱っていても言いたいことはシッカリ訴えるところは、いつもの母と変わらない。
「じゃあ入院しますか。有料のお部屋やけど、よかですか?」
「よかですー。(あんたお父さんに言っとってね)」
こうして母は、望み通りホスピスへ入院したのだった。

 

ホスピス8F病棟から見える景色

ホスピス8F病棟から見える景色

 

その日の夜、わたしと父(妹は仕事で来られなかった)は、病棟主治医となるU先生とお会いした。U先生は還暦を過ぎた男性医師で、大柄で背筋がぴんと伸びたロマングレーの横顔は、宇宙戦艦ヤマトの沖田艦長にちょっと似ている。

 

検査結果はわたしの予想通りだった。
【血液検査】
貧血なし、赤血球白血球問題なし、栄養状態よし
【CT】
肺に放射線治療の跡アリ、左に転移かも? しかし、ハッキリとした転移ではない。痛みや吐き気に対する客観的なデータは現時点では見つからない。

 

つまり、現時点の母は終末期ではないという。
今回は本人の強い希望と、衰弱している様子に配慮して、入院を受け入れてくれたとのことだ。

 

沖田艦長先生は張りのある声で朗々と話す。
「ホスピスは余命宣告をされた方の痛みをとるのが仕事です。
末期がんの患者さんには、体の痛みと心の痛みが相互に深く作用します。
痛みの感じ方は過去の経験や育ち方にまで深くかかわっており、解き明かすためには、ご家族の力が不可欠です。
どうやら体よりも心の痛みが強く出ているようですが、なぜこのような症状(痛み)がでているのか? 心当たりはありませんか?

 

ありますとも。
今まで、誰も尋ねてはくれなかったことを、よくぞ聞いてくださった。

嬉しくなって、わたしはペラペラしゃべってしまった。

うつ病をわずらって、5年ほど医大精神科に通院しているが、よくならないこと。
再発の放射線治療のときに青年医師から
「どうにもならないことを言わんでください」
「緩和ケアのひと」
「余命半年だから治療はしない」
と言われて、とてもショックを受けていたこと。(→ 参考
退院したばかりで、体調がよくない父との生活が不安だったのかもしれないこと。

 

それでも
「亭主関白で横暴な父と仲が悪くて、ふたりで暮らすのがイヤになったんだと思います」
とは言いづらい。後でこっそり話せばいいや。
そう思って口を閉じると、父がさらっと告白した。
わたしの態度が冷たかったかもしれません

わたしはビックリして、口がぽかーんとあいちゃった。
わたしが、母が、妹が、これまで誰にも相談できずにひた隠しにしてきた家族の問題が、あっけなく白日のもとに晒されたのだ。
「そう思われますか」
沖田艦長先生は、穏やかな態度を崩さなかった。
なぜそう思うのか、それでこれからどうしようと思うのか、時折質問や相槌を挟んで父の話を熱心に聞き、うんうんとうなずいた。
「たいへん参考になりました。今度は妹さんも一緒にお会いして、お話ししたいですね。わたしたち緩和ケア科の医師や看護師はもちろん他の科の力もあわせて、チームで医療に当たります。退院めざしてがんばりましょう。」

 

 

秘密が秘密じゃなくなっても、悪いことは何も起きなかった。
誰もわたしたち家族を責めないし、父も不機嫌になったりしない。
ここでは、父と母の仲を取りつくろうことはしなくていいんだと思うと、肩の荷が下りてほっとした。
ホスピスって、すごい。
患者だけじゃなく、家族の問題もひっくるめて支援してくれるんだ。
ここで少しのんびりしたら、きっと母の気持ちも落ち着いて、元気を取り戻してくれると、わたしは本当に思ったのだ。

 

 

花村桂子

6 Comments

  1. nobuko

    す、すごいドラマを拝見(読か)した気がします。

    自分が冷たかったかもしれないと、淡々と言うお父様が見えるようです。

    亭主関白で横暴な夫(父)と妻子に思われていることを、ひょっとしたら以前から感じていたのかも。でも、態度が変えられなかったのかも。

    緩和ケアって凄い。

    けいさん家族のこの先が、緩和されて行きますように。

  2. yuko

    沖田艦長先生、いいですね。
    それにも増して、お父様・・・。
    ちゃんと自覚があったんですね。
    けいさんのご家族は、今後、いい方向へすすむことをお祈りします。

  3. けい

    nobukoさん
    >す、すごいドラマを拝見(読か)した気がします。
    ありがとうございます

    ほんとにねぇ
    わたしは、なぜあの時父がさらっと告白したのか
    今でも分からないのです
    謎だわー

  4. けい

    yukoさん
    >それにも増して、お父様・・・。
    >ちゃんと自覚があったんですね。
    そのようで(^_^;)

    >けいさんのご家族は、今後、いい方向へすすむことをお祈りします
    ありがとうございます
    父の言葉は大きな一歩でした

  5. kaoru

    「痛みの感じ方は過去の経験や育ち方にまで深くかかわっており、」
    というところ、結構グサッときました。痛みって物理的なものだけじゃないんですね。今更どうにもならないけど、育った環境がその後の痛いという感覚にも深くかかわってくるなんて恐ろしい・・・。

  6. けい

    kaoruさん
    >痛みって物理的なものだけじゃないんですね。
    心があんなに生き方に影響を与えるなんてびっくりしました
    ひとは生きたように死んでいくそうです
    よくもわるくも

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