健康

お尻が筋肉痛

ソファに横になって、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)見ていた。
侍ジャパンと予選一位通過の台湾との試合。
日本はなかなか1点が入れられず、台湾にリードを許している。
カメラは台湾側のベンチを撮している。
大リーガーでもあるというピッチャー、王建民は意思の強さを秘めた涼やかな目を持ついい面構えの男だ。

3回の裏、台湾の攻撃が終わってチェンジというとき、アタシはソファの上でのびをした。

アレッ、お尻の筋肉がひきつるように痛い。
きのう、なんか筋肉痛になるようなことしたかな?
記憶をたどっても、それらしきことは何も思い浮かばない。

だいたい、この頃、運動というものをまったくしていないのだ。
一時、カーヴィーダンスのCD付き本を買ってきて、家の中でやってた時期もあったけど、2週間くらいで頓挫。

以来、運動らしい運動はしていない。
特にこの冬は寒くて、外に出ることも億劫になっていた。
だけど昨日は、春の到来を告げるように気温が一気に15度まで上がった。
だから、冬眠から覚めた熊のようにむっくり家から這い出し、久しぶりに友人と会って、渋谷で食事をしたのだ。
友人は東京の東側、私は西側に住む。会うときは渋谷あたりが調度いいのだ。

テレビに視線を戻すと、CMが終り、日本の攻撃が始まっていた。
ランナーが塁には出るが、1点が入らない。
あ~、またフライか~

野球を見ながら、ソファに横になったまま、お尻の痛いところをさすっていると、夫がアタシを呆れたような目で見た。

そのとき、ふと、筋肉痛の原因が思い当たった。

昨日の靴のせいだ。

女友だちとの外食。
夫と近所の店に飲みに行くときよりも、着るものに気を使う。
とはいえ、この年齢になると、頑張ってオシャレをすると、かえってオバサンくさくなる。(ってもう55歳。早婚なら孫がいてもおかしくない年齢なんだけど)

カジュアルに、こなれ感を出すのが、このごろのアタシのスタイルだ。

昨日はジーンズに、ベージュのカシミアタッチのセーター。グレーの薄手のコートに、淡いパープルのストールを組み合わせた。

素材には気を使っているが、シンプルで、とりたてて特徴のないスタイルだから、靴だけはエレガントにした。
このところ、寒くてずっとブーツばかり履いていたのだけど、春のきざしに誘われて、ベージュのパンプスに足を通す。
ジーンズは裾を折り返し、ベージュのストッキングをはいて、足首を見せる。
冬の間はブラックタイツばかり履いていたから、ベージュのストッキングも久しぶり。
足首が、なんだかスースーするけど、気分が華やいだ。

昨年、靴専門の通販で買ったものの、1回履いただけのベージュのパンプス。
ヒールが7cmあり、これを履いて長時間歩く自信が持てなかった。
けど、昨日は食事に行くだけだったし、春もやってきたことだしと、履いてみたのだった。

歩き始めは、少し前のめりになるようで不安定だったけど、すぐ慣れた。

渋谷のイタリアンでは、スプマンテから初めて、軽目の赤ワインを飲み、小皿料理をつまみながら、おしゃべりを楽しんだ。
友人の子どもの話やら、このままでは老後が心配だの、最近は株がまた上がり出したから株式投資をしたほうがいいなど……。
女はおいしいものを食べながら、おしゃべりを楽しむのが大好きな生き物だ。

「株って、いつやるの? 今でしょう」
アタシは最近、CMでよく流れる進学塾の講師の口調を真似して言った。
「私、もう、株あんまりやってないのよね」と友人。
「そうなの? 去年のくれあたりから、けっこう上がってるんだよ~」とアタシ。

友人は30代で離婚し、シングルマザーとして子ども二人を育てきた。
その子どもたちが社会人になり、ひと安心。最近は家にお金を入れてくれるようになったとか。
今度の休みには、娘と一緒に金沢に旅行するという。

子供のいないアタシとしては、ちょっとうらやましい。
それに、子供を育て上げたというだけでも、人間としての値打ちが違っているような気がする。
若いときは、そんなこと思いもしなかったけど、この歳になるとそう思う。
自分の身と時間を削って、子供を一人前の人間に育て上げた女と、夫はいるにしても、時間のほとんどを自分のために使い、自由気ままに生きてきた女が、同じであるはずがないと。
女同士の会話は、話題に脈絡がなく、次から次へと移り変わっていく。
イタリアンのレストランから、共通の友人がブログで紹介していたバーに行くことにした。
渋谷の駅前から西武百貨店、マルイ、渋谷消防車の前を通り、10分ほど歩いた。
東京電力の電力館がいつのまにか無くなっていた。
「でん子ちゃん、もう、いなくなっちゃったんだ」
「渋谷で電力館やってる余裕ないんじゃない? 福島の人に怒られちゃうよ」
「電気代も上がったしね」

その代わりに大きなシダックスのビルがあった。

「ファイヤー通りっていうのよね、この通り。消防署があるから。私、桑沢に通ってたから、この辺は庭だったのよ」
歩きながら、友人が懐かしそうに言った。

アタシはベージュのハイヒールで、そのファイヤー通りを15分ほど歩いたが、花の香りを含んだ夜風が頬に気持ちよく、足は痛くならなかった。

バーでは、店主が極上のチョコレートとコニャクやらグラッパとのマリアージュを語り、進められるままに、いろいろ試した。

豊かな時間だった。
この歳になると、誰もお酒をおごってくれたりはしない。
しかし、食べ物の志向があう友人と、割り勘で食べたり飲んだりする自由が手に入る。
ほろ酔い気分でバーを出て、ファイヤー通りをフラフラと歩き、渋谷の駅に向かった。
友人と別れ、アタシは田園都市線の地下の駅へ。
改札を通り抜け、階段を降りていると、中央林間行きの急行が止まっているのが見えた。
どうしようかな、と一瞬迷ったが、次の瞬間、アタシは階段を駆け下りていた。

ダッシュで、閉まりかけの電車のドアの中に身を投じる。
セーフ!
ハイヒールだけど大丈夫だった。
55歳。ぜい肉もたっぷりついているけど、まだハイヒールでいけるじゃん。

オバサンくさくなりませんように。
ささやかな抵抗の印がアタシのハイヒール。
(言っとくけどピンヒールじゃないよ。そんなの履いたら、すぐ捻挫しちゃうから。この歳で足首を痛めでもしたら、取り返しがつかないもの)
終電に近い電車は、そこそこ混んでいた。
吊革につかまりながら、また、ちょいちょいハイヒールを履こう! なんて考えた。

でも、次の日にはそんなことすっかり忘れてた。

そうしたら、まる一日たってから、このお尻の筋肉痛である。

久しぶりのハイヒールで、普段使わないお尻の筋肉を使っていたのだろう。
駅の階段を急いで駆け下りたのも影響しているのかもしれない。

午前中じゃなく、時間がたっぷりたってから症状が出てきたのが、ちょいと情けない。

ソファに横になって、ダラダラしていないで、ストレッチでもやったほうがよさそうだ。

テレビでは侍ジャパンが健闘していた。
あ~、もうダメ、負け~と思ったけど、9回で同点に追いついた。
そして延長の末、勝った。

だから、どうだってこともないけど、アタシも今シーズンは、女をあきらめないためにハイヒールで頑張ろうか、と思う。

 

(せきらら ようこ)

 

 

 

 

4 Comments

  1. りーたん

    7cmのヒールですかぁ。ブーツすらペッタンコを履いてた私には、自信ないなぁ。でも、まだまだこれから。あきらめちゃだめだよね!!

  2. sanae

    ハイヒール・・・履かなくなって、かれこれ20年。いま履いたら、お尻から足首までぜんぶ筋肉痛だろうなー。でも、ヒールで華やぐ気分って大切ですね。

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